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冷奴
50年ぶりに、奈良に旅した。幼馴染の従妹が住んでいるからだ。ご主人は、学校の先生で、言ってみれば職場結婚だという。多分自慢だと思うが、自分が先に職場にいて、御主人が「後から入ってきはった!私のほうが先輩や」と胸を張った。前期高齢者なのにとても元気だ。奈良に住んでるお陰で、鹿のフンをたくさん踏んだからだろう。
それはともかく、いとこは言わはった。
「冷奴、家とこは、ワサビで食べるけど、ハジメちゃん(これは私が、オカマバーに出るときの源氏名・・・嘘です)とこはどうか?」
と聞く、豆腐をワサビで食べるという風習は、少なくとも関東では聞かない。酒は好きだから、つまみに「冷奴」はかかせないが、普通、すりおろし生姜、ねぎ、鰹節、醤油が王道だ。少し変わっても、生姜が和がらしに代わるくらいである。だから 「へーェ」と驚くしかなかった。「ゼッタイおいしわ」と言う。半信半疑では有ったが、話題は他に反れた。
旅行も終え、家に戻ると、早速試してみた。チューブ入りの生ワサビ少々をダシ醤油で溶く、ネギはみじん切り、鰹節もみじん切り、これを絡めて 豆腐 に載せる。絹ごしではさほどでもないが、木綿ではそこそこいける。しかし、やはり「冷奴」には生姜のほうが合うようだ。後日、従妹からありがたいことに、奈良の大吟醸が送られてきた。添え状に「冷奴は、生姜で食べていたことを思い出した、ヤーネ年をとるのは、アッハッハー」と記されている。
私にも、確かに悪いところはある。だが、あまりにも自信たっぷりに言われると、ついつい、信じてしまうし、「ゼッタイ」にと言われればなおさらのことだ。幼いころ一緒に遊んだ、私をそんな風に たぶらかさ ないでほしい。折角の楽しかった美しい思い出が、色あせてしまう。
さらには、「ゼッタイとはもう、ゼッタイに言わへん」と書いてあった。
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